鬱蒼とした森のずっと奥まったところにある洋館の外見は、所々にこの建物が長らく存在するものだと言外に滲ませるものがありこそすれ、そこに確かな威厳と美しさをもってして佇んでいた。蔦の絡まない壁は白く、斜めにかけられた格子に蔓延る錆がそれを強調している。両開きの1枚板のドアを開くと目の前に現れるのは1枚の絵画を讃えるように並ぶ階段と、それを守るような甲冑が2体。
柔らかなマットレスの上で目を覚ましたら、
なんともなしに廊下を歩き、
絵画を眺めながら階段を降りるだろうか。
濃く磨かれた板張りに敷かれた赤絨毯を踏みしめながら、右に向かおう。
赤い薔薇が行けられた花瓶が脇に添えられたドアを開けると、そこに男が1人居た。
ぱちぱちと木の爆ぜる音の方を向けば暖炉に火が入っていることがわかる。ふわりと香るのは紅茶のそれで、男は赤い敷布のソファに座り、ローテーブルに置かれたティーセットに手を伸ばしながら言うのだ。
「お目覚めになりましたか?おはようございます」
「紅茶でもいかがでしょう…お茶菓子はないのですが」
「どうぞご自由におかけくださいね」
「私以外の人に会うのは、久しぶりで…」
「_頭取と申します。」
「お名前を、お伺いしても?」
黄緑の髪を刈り上げ、赤い首輪の嵌った喉仏を上下させて紅茶を嚥下する男は、貴方がこの洋館で、最初に出会う男であった。